医師のカルテ開示請求はよく聞くけど、
薬歴の開示請求はできるのか?
薬歴の開示請求 調べたきっかけ
最近、睡眠薬服用により正常な運転ができず
交通事故になるニュースをよく見ます。
薬局では睡眠薬などを渡すとき、
翌朝の眠気やふらつきに注意すること
運転は控えるように説明しています。
もし睡眠薬で交通事故を起こした加害者が
医師からも、薬剤師からも運転に注意するよう
言われなかったと供述したら
医師や薬剤師にも過失は発生するのだろうか?
薬剤師は法律の専門家ではないため、過失の有無について
明言は控えます。
ただ、薬剤師に対して一つ言えるのは
間違いなく説明しておくこと
説明した記録を薬歴に残すことだと言えます。
これが法的根拠になり、自分たちの身を
守ることにつながります。
ということは、
薬歴を開示請求される可能性も十分考えられると言えます。
余談ですが、以前一部の薬局で薬歴が適正に管理されておらず問題となりました。
私の薬局にも、問い合わせの理由こそ聞けませんでしたが「薬歴はどのくらい保管されているのか」という問い合わせが来たことがあります。
患者さんが、自らの薬歴がきちんと管理されているか確認したいというケースが今後あるかもしれません。
開示請求があった際の対応について考えてみたいと思います
薬歴開示請求 想定されるケース
処方薬を使用した事件は、交通事故のみならず、昏睡強盗、インスリンによる殺人未遂、服薬自殺など様々なものがあります。
裁判所から令状が出た場合は開示請求を受け入れることは言うまでもありません。
では、患者さんから「見せて。見たいの」っていわれたら
どうしましょう?
まさか、その場で「ハイどうぞ」ってできないくらいは分かりますが
そのようなケースはどう対応すれば良いのでしょう。
薬歴開示 法的根拠【結論】
法的解釈では、下の長~いのを要約すると
薬歴の開示は
患者さんの不利益になると判断される部分は
開示しなくてもいいが、それ以外は開示しなければならない
となっています。
個人情報保護法
第二十八条 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求することができる。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合三 他の法令に違反することとなる場合3 個人情報取扱事業者は、第一項の規定による請求に係る保有個人データの全部又は一部について開示しない旨の決定をしたとき又は当該保有個人データが存在しないときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
4 他の法令の規定により、本人に対し第二項本文に規定する方法に相当する方法により当該本人が識別される保有個人データの全部又は一部を開示することとされている場合には、当該全部又は一部の保有個人データについては、第一項及び第二項の規定は、適用しない。
厚生労働省の見解
(平成29年4月14日 個人情報保護委員会)
というものに、個人情報保護法と同様の見解が書かれています。
例えば診療録の情報の中には、患者の保有個人データであっ
て、当該診療録を作成した医師の保有個人データでもあるという二面性を持つ部分が
含まれるものの、そもそも診療録全体が患者の保有個人データであることから、患者
本人から開示の請求がある場合に、その二面性があることを理由に全部又は一部を開
示しないことはできない。ただし、法第28条第2項各号のいずれかに該当する場合
には、法に従い、その全部又は一部を開示しないことができる。
薬歴をそのまま開示できない理由
薬歴開示により、医師の治療や患者さん自身にマイナスとなることがあれば、開示しないことができる。
薬歴開示が患者にとって不利益になるとは
どんなケースが考えられるのか?
薬歴は、客観的事実と、薬剤師の考え(アセスメント)について記入されています。
アセスメントはあくまでも薬剤師の【脳内】です。
患者さんには話さない内容や、薬剤師の推論も含まれています。
開示が適さないアセスメントの例
- 医師の処方に対して、「プラセボ効果を狙っての処方変更」
などと記入されていれば、結果的に治療効果が低下してしまう
ことも考えられます。 - 処方された抗がん剤から、文献より余命を推察してアセスメントに記入する
- 処方から、患者さんの病名を推察してアセスメントに記入する
- 投薬時の会話から、体調不良の原因は職場や家族関係の可能性あり
などと推察を記入する
これらは、薬剤師が頭の中で思考を整理するためのものです。
それを踏まえながら対応しつつ、適宜修正が加わっていきます。
あくまで患者さんに説明することは客観的事実のみという状況です。
薬剤師の主観が書かれたアセスメントをそのまま開示すればそれは次の点で問題が発生します。
- 処方解析による病名の推察が、医師の診断と異なっている可能性がある
- プラセボの場合は効果が十分に発揮されない
- 薬剤師の推察した余命は文献情報などによるものなのに、
それを患者さんに見せることは問題
これらは明らかに、開示が患者さんの利益に反すると言えます。
そのため、
薬歴の開示請求がされた場合は、開示できる部分とできない部分を
十分に精査する必要があります。
薬歴の開示請求 マニュアルを整備
薬歴の開示請求はめったにあることではありません。
めったにないことですが、大手のチェーン薬局であればマニュアルがあると思いますので、確認しておくことが必要です。
もしマニュアルが無いようであれば、薬剤師会等に相談等して整備する必要があります。
間違っても、薬歴をすぐコピーして渡すといった対応は避けるべきです。
具体的な対応例
もし、会社に薬歴開示請求のマニュアルがあったとしても
「そんなのいちいち覚えてられないよ~」という声が聞こえてきそうです(笑)
もしかしたら薬歴の開示なんて一生やらないかもしれません。
ごく稀な対応なので、面倒と考えるのも無理はないし、一度マニュアルを確認してもいざというとき絶対忘れています。
そのため、すぐにコピーして渡さないということだけ全員に徹底してもらいます。
そして、次のように対応する形が良いと考えます。
このような形で一旦時間をいただきましょう。
その間に、開示に問題がある場所を検討し、一部は【墨消し処理】して対応したのち、患さんにコピーしたものを交付すれば良いでしょう。
墨消ししすぎると、国会の「モリカケ文書」
みたいになるので注意(笑)
最後に
繰り返しになりますが、患者さんから薬歴の開示請求があったとき、
- 開示ができないと断るのは認められない
- すぐにコピーして渡すことも控えなければならない
です。
患者様に不利益とならないよう、薬局、処方医ともに十分に精査してからの開示となるため、お時間をいただいての対応となることを懇切丁寧に説明し対応することが重要になると思います。