調剤過誤

大手ドラッグストアチェーンでの調剤ミス 糖尿病薬混入 原因を推測

 

 

8月28日に、大手ドラッグストアチェーンにおける調剤ミスが大きく報道されました。

 

スギ薬局で「糖尿病薬混入」の調剤ミス、74歳女性が半年後に死亡…遺族が3850万円賠償求め提訴 – 弁護士ドットコム (bengo4.com)

 

調剤ミスの内容は、一包化(薬を、朝食 昼食 夕食分などとわけて個包装する調剤)のミスのようです。

患者様の服用している持病とは無関係である糖尿病の薬(血糖を下げる薬)が一包化に混入していたとのことです。

必要のない血糖降下薬を服用した結果、意識不明となってしまったとのことです。

今回のブログでは、患者様の容態の変化と調剤ミスの因果関係については一切触れません。

具体的な薬剤名や、ミスの詳細などは報道からでは分かりませんが、現役薬剤師の視点でどのような事故だったのかを考察したいと思います。

なぜ、このような一包化ミスが発生したのかを、報道記事によるいくつかのヒントを手掛かりに推測し、その対策方法を考察してみました。

結論は、機器や人を増やしても防げないミスであることです。

 

調剤ミスの概要

  1. 本来は2.5錠入っているべき包の中に、2錠多い4.5錠が入っていた
  2. 前に調剤した患者の薬が分包機に残っていた
  3. 誤って混入した薬は、糖尿病の薬が2錠

調剤ミスの原因

調査

上記から以下のような調剤ミスが推察されます。

ここからは、あくまでも推察です。

今回の調剤ミスの直接的な原因は、前の患者の一包化調剤においての取りそろえ数量ミス(多く用意しすぎ)だと思われます。

(例えば、本来21錠でいいものを、28錠用意してしまった。)

 

今回の調剤ミスは、亡くなられた該当の患者様だけではなく、直接の原因はその前の患者様の調剤ミスにありそうです。

前の患者様のミスとしては、服用する薬の日数を処方より多めに取り揃えてしまったことです。

そして、多く取りそろえた薬をそのまま分包機にセットしてしまったことです。

普通だったら、患者様も日数分を多くもらうだけなので、ミスが原因で事故につながることはほとんどありません。

しかし今回は、薬が血糖降下薬だったことや、一包化であったことから大きな事故になってしまいました。

糖尿病の処方箋では、1日1回服用の薬もあれば、毎食直前に飲む急激に血糖値を下げる血糖降下薬もあり、それらが組み合わさって処方されることがあります。

そして、食直前服用の薬においては、食事をとらなければ服用しないので、だんだん余ってきます。

余ったままにしておくと無駄になるため、日数を減らして調整されることがあります。

すると、例えば28日分の処方箋なのに、食直前に服用する薬だけ21日分の処方と調整されることがあります。

28日分の薬を取りそろえる中で、一部21日分があることを見落としてすべて28日分で薬を取りそろえたとします。

一包化を行う分包機の設定は、28日分のものと21日分のもので正しく設定されたとします。

 

21日分の薬剤を一包化するときに、手元にある誤って多く取りそろえた28日分をそのまま分包機にセットします。

分包機は設定どおり21日分を一包化しますので、7日分はそのまま分包機に残ります。

 

このため、死亡した患者様の前の患者様の処方箋は間違いなく調剤されるため、分包機に取り残された錠剤の存在に気づきません。

この時点では、分包機の中の22日~28日のところに糖尿病薬がセットされたままとなっています。

その後、次の患者様(今回調剤ミスの患者様)の一包化が28日分であれば、28日分の中に7日分だけ前回多く取りそろえてしまった糖尿病薬が入ってしまいます。

様態が急変した患者様は、最初は問題なく薬を飲んでいたが、数週間経過したところで糖尿病薬入りの薬を服薬し急変したことともつじつまが合います。

今回のような調剤ミスを防ぐ方法

今回の調剤ミスのいきさつは、こんな感じでしょうか。

調剤ミスを防ぐにはどうすればよかったか?

今回の調剤ミスは、該当の患者様のチェックミスのほか、その前の患者様の調剤ミスが重なったことが原因となります。

しかも前の患者様は調剤ミスをしても、結果正しい数量がわたるため間違いにはならず発見が遅れたことも不幸でした。

どうすればミスは防げたのかしら?
調剤ミスを防ぐために以下のようなチェックは、チェック項目に通常組み込まれています。
  • 一包化した薬剤の目視によるチェック
  • 分包機を使用する前に、掃除機で分包機内のホコリや散剤などの残りなどを吸い取る
  • 薬剤を取りそろえたのち、処方箋通りの種類、数量であることを再度チェック

 

一包化されたものにおいては、薬品や錠剤の数があっているか目視で監査しますが、今回は一包化した際の錠剤の数量のチェックがなされていなかった

前回の患者様の調剤を行うときに、薬を取りそろえた後に、数量のチェックがされなかった

一包化を行う前に、分包機を開けて軽く掃除機をかけて、ホコリなどの混入がないようにする必要があるが、前回が錠剤だけだとほとんど汚れないため、その掃除を怠り分包機に取り残されている薬を発見できなかった

 

基本的な手順を守っていれば、薬剤師でなくても気付くことができるミスであったことがわかります。
どんなに重大な結果をもたらす事故であっても、対策は基本的なことばかりですね

調剤ミスのもう一つの原因 集団無責任体制

今回は、数量のチェックや掃除を怠らなければミスに気付いたかもしれません。

錠剤の数を数えるだけなら、薬剤師ではなくても、小学生でもできます。

でも、なぜミスが起きてしまったのか?

おそらく考えられるのは、ダブルチェックやトリプルチェックによる集団無責任体制だと思われます。

  • 錠剤を取りそろえる人
  • 一包化調剤を行う人
  • 最終チェックをする人

それぞれが別の人だった場合、「前の人がこれくらい見ているから大丈夫だろう」というバイアスが働き、チェックがいい加減になってしまうことがあります。

数を数えて。「よし、あっている!」という監査ほど、目の前にたくさんの患者様が待っていればついつい省略してしまいたくなります。

該当の薬局も、複数人薬剤師が勤務する大きな薬局で、混雑していたのかもしれません。

もし一人だけで調剤してこのようなミスをするようでは、数を数えるチェックすらしていないので理解に苦しみます。

だから、今回の対策として、「複数人でダブルチェック トリプルチェックを云々」ということは解決になりません。

前にチェックしたのは管理薬剤師だから大丈夫なはず・・・

先輩が取りそろえた薬だから大丈夫なはず・・・

その心の隙間をついて、調剤ミスがやってきます。

そんな時は、自分のミスがどのような結果をもたらすが、基本に立ち返ってその都度心を入れ替えましょう。

心を入れ替えるための記事はこちらです。

調剤過誤の対策が必要な6つの理由 

この記事の6つ目の理由 いつも忘れないようにしています。

実際は、これが一番の対策です。

 

機器を増やしたり、人を増やしても防げません。

 

調剤ミスがないように相互確認、ダブルチェックを行い再発防止に努めますなどとよく言われますが、ダブルチェックには、今回の件も含めいろんな原因でミスが起こることを知ることに加え、「前の人がちゃんとやってくれただろう」という思い込みを排除して取り組むことが、調剤ミス対策には必要だといえます。