結論
調剤事故を起こした場合に発生する薬剤師の法的責任は、実際に健康被害が出なければ無いと考えてよい
法的責任が発生しない場合でも、社会的責任が発生することがあり、それにより発生するダメージも大きい
ここでは、薬剤師が調剤過誤を起こした場合に発生する各種責任について解説します。
こんにちは。薬剤師&ケアマネ卵&ブロガーのゆるやく
です。
1 社会的責任
社会的責任とは、法的な強制力は無いが、信頼を失い仕事が継続できなくなったりすること。
今の時代だと、【特定】されて【拡散】されたりしてしまうこともあるかもしれません
(このようなケースでは、逆に薬剤師側から提訴するケースも想定されます)
また、調剤過誤の対策が必要な6つの理由 でも挙げたように、社会的責任により自らを追い込む形となります。
よく、「これは別に罪にならないから」とうように、意識の軽い発言がされることがありますが、社会的責任の観点からも、薬剤師にはモラルが重要ということがいえます。
2 法的責任
日々調剤をしていてヒヤリハットなどに遭遇した場合、もしこれを見落としていたらどうなっちゃったんだろうかという不安に駆られることもあると思います。
社会的責任以外に、法的責任までしっかり理解し、万が一の時はどうなるかをしっかり把握することが重要です。
調剤過誤を正しく恐れることにより、漠然とした不安に押しつぶされないようにしましょう。
刑事責任
罪を犯したものが、罰金や懲役〇年などといった刑罰を受ける責任を指します。
刑法211条の業務上過失致死傷罪に相当します
不注意により誤った薬を混入させて死亡させたといったケースが相当します。警察が自ら捜査して逮捕して・・・といった展開になりますが、死亡、重症例が発生する事故でなければこれはまずないでしょう。
調剤過誤により、健康被害が出た場合はその程度にもよりますが、患者さんが被害届を出すことなどにより捜査が始まります。
ここで、被害が重大であり、過失がプロ(薬剤師)としてあり得ない行為であれば刑事事件となる可能性があります。
そのため、仮に調剤過誤があっても、【そもそも何ともなかった】や、【ちょっと下痢したがすぐに治った】などの場合は不起訴となり罪が成立しないことが多いようです。
刑事罰になった調剤過誤の事例では、ウブレチド事件があります
- 自動分包機にマグミットをセットするはずが、ウブレチドをセット
- 何人かに交付した後途中で気づくが、上司に怒られるのがいやで報告せず放置
- その結果健康被害発生 患者様1名がお亡くなりになる
また、ネットで検索すると、調剤過誤でなんとか賠償金を取ろうとするために色々調べている人もいるくらいなので、通常の業務に支障が出るほど揉める可能性があります。
健康被害が発生してなくても(過誤はあってはいけないことだが)揚げ足を取り「誠意を見せろ」などといって不当に金品を要求するケースも存在します
これくらいなら罪にならない、罪は軽いなどと考えることはあってはなりません
調剤過誤は交通事故と同じで、プロの運転手でも交通事故を起こす確率があります。
事故を起こさないために安全対策を講じているにもかかわらず起きてしまったことにおいては、日ごろからどのような安全策を講じていたかが情状酌量の余地になると思われます。
調剤においても、手順やマニュアルをおろそかにせずに業務にあたることが【刑事罰を避ける意味でも】重要です。
行政責任
薬剤師は、厚労省から免許を受けて業務をしています。
行政責任は、薬剤師の監督官庁に対する責任となります。
薬剤師法8条、5条により、医道審議会などを経て、業務停止や免許取り消しがなされる
調剤過誤による刑事罰や、薬剤師としての品位を損なう行為があった際に対象となります
先ほどのウブレチド事件では、業務停止の処分となっていますが、ほとんどの調剤過誤で刑事罰にならないことからも、ここまで至るケースは少ないと考えられます。
民事責任
①【過失】があり、②【健康被害】が発生し、③【因果関係】が立証されれば【損害賠償請求権】が患者さんに発生する
①~③すべてが揃う必要がある
①~③のうちどれかが欠ければ損害賠償は請求できないことになります。
調剤過誤によって、誤った薬を服用しても、何も起こらなかったり、そもそも服用前に気づいて交換した場合などは、ここには該当しません
仮に、調剤過誤により服用したあと、なんだか体調が悪いといった場合でも、体調不良と調剤過誤の因果関係が証明されなければ損害賠償は請求できないことになります。
因果関係の立証責任は、被害者側にあります。
というケースでも、悪質な患者の場合は様々な要求をしてくることも考えられます。
こういったときに、調剤過誤を自分一人で抱え込んで内密に処理を進めていたりすると弱みを握られてしまいます。そのようなことが無いためにも、過誤が発生した場合はしかるべき対応方法を取り、管理薬剤師、開設者、薬剤師会、保健所への報告を怠らないことが重要です
不当な要求や、困ったケースがあった場合は、自分一人で抱え込むことは厳禁です
そもそも、患者側からの訴えが無ければ民事訴訟は始まらないことなので、日ごろから患者様と向き合い、良好な関係を築いておくことが、民事責任を回避するためにも有効といえます。
交通事故との比較
交通事故と調剤過誤による健康被害は似ている所があります。
だれも起こそうとしてはいないが、不幸にして起きてしまう可能性が誰にでもある。
重大な調剤事故は人生が狂う
調剤過誤の対策が必要な6つの理由 の6番目の理由の通りです
軽微な事故でも、交通事故は車の修理費などでトラブルになります。
調剤過誤においても健康被害が発生していない状況でも、その後どのような健康被害が出るかわからないという患者さん側の不安もあり、解決までに膨大な時間が掛かることがあります。
(これは、道義的責任を負っているだけで、法的に考えれば「訴えたければ訴えれば」といって突っぱねても何も問題ないことですが、薬剤師としてそのような短絡的な思考に陥らないよう注意が必要です)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
調剤過誤に係る3つの、刑事、行政、民事の責任+道義的責任
これらをしっかりと理解したうえで、
手順を守り安全管理を怠らないことが、患者様と自分を守る
とうことを理解し、
調剤過誤を正しく恐れて正確な業務を行いましょう。
そうすれば、調剤過誤に対する漠然とした不安でこの先が心配になるとうことを、
杞憂に終わらせることができるでしょう。
注意)ここでの法的解釈等は、執筆者の個人的見解であり、それに伴うトラブルなどを一切保証するものではありません。